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年金ジャーナリスト岩瀬達哉氏の大罪

2004526

宇佐美 保

 

 ジャーナリストの岩瀬達哉氏は「年金問題」に対して、実に素晴らしいお仕事をされて『年金大崩壊』、『年金の悲劇』(双方とも講談社発行)を書かれております。

でも、大変残念なことに、厚生年金が被った最大の悲劇を重く受け止めておられないことです。

岩瀬氏の労作があまりにも御立派で、その影響力が絶大な為に、却って、「年金の最大の悲劇」である「年金積立金運用損」への責任追及が疎かになってしまっているのです。

 

 確かに、岩瀬氏は“積立金の運用で9兆円近くの損失を出している”と抗議されています。

しかし、(拙文《厚生年金と共済年金》にも書きましたが)「共済年金」の運用に比べたら「厚生年金」は、百数十兆円の運用ミスを計上しているのです。

 

 何故この点を岩瀬氏が追及出来ていないかと云いますと、岩瀬氏は「花澤発言」と云う大スクープをしながら、その花澤発言の術中にまんまと(率先して)嵌ってしまっているからです。

 

 何度も引用させて頂いておりますが、ご参考の為に、岩瀬氏最大のスクープ「花澤発言」を、今回も引用させて頂きます。

 

……どうやら年金制度の発足当時から、すでに年金官僚たちは利権のことを考えていた。

 現在の厚生年金保険法の前身である労働者年金保険法が制定されたのは、戦争中の昭和十六年のことです。この法律の起案者で、戦前の厚生年金保険課長だった花澤武夫氏が、一九八六年に厚生省の外郭団体が主催した「厚生年金保険の歴史を回顧する座談会」で当時を振り返っているのですが、身内相手ということもあって、驚くほど率直にホンネを語っている。

「年金の掛け金を直接持ってきて運営すれば、年金を払うのは先のことだから、今のうち、どんどん使ってしまっても構わない使ってしまったら先行困るのではないかという声もあったけれども、そんなことは問題ではない。……将来みんなに支払う時に金が払えなくなったら賦課式にしてしまえばいいのだから、それまでの間にせっせと使ってしまえ」と自ら手口を明かしているのですから、開いた口がふさがりません。

 

 この「花澤発言」の“将来みんなに支払う時に金が払えなくなったら賦課式にしてしまえばいいのだから”の意味を何故岩瀬氏は重要視しないのでしょうか!?

 

 多分、「花澤発言」の真意を御理解出来ていないのだと存じます。

そこで、「花澤発言」の真意を、書き添えたいと存じます。

 

 今、年金加入者が払い込んでいるお金は(今、使うお金では決してなく)、彼等の為に積み立てておき、且つ、運用利益(年率:5.5%予定)を出して何倍かに増やしてあげておき、彼等が将来年金受給の資格を得る歳になったら、この彼等の為に積み立て増やしてきたお金を、毎年、年金という形式でもって(全額)彼等に返して行くのだ。

これが、年金の本来あるべき姿の「積立金方式である。

しかし、別にお金には印が付いている訳ではないから、彼等が、年金受給資格を得る数十年後迄に、(運用している振りをしながら)彼等のお金をドンドン(たとえ、全額だろうが)使ってしまっても良いのだ。

 

 そして、彼等に払う時が来たら、彼等の後世代の年金加入者が払い込んでくる年金掛け金(年金積立金)を、彼等に振り向けてやればよいのだ。

この子供や孫の世代が親の世代を扶養する仕組み「扶養方式」と云うのだが、親の代を扶養するのはまっぴらだという輩も出てくるから、国民の義務「税金的存在」として「賦課式」と名付け全国民に年金支払いを義務づけてしまえば、何の問題もないのだ。

 

 なにしろ、当時積み立てつつあった「年金積立金全額」を食い潰してしまっても、“最終的には「賦課式」と年金の看板を付け替えてしまえば「年金事業」は未来永劫問題なし”、と花澤氏はほざいたのです。

 

 即ち、花澤氏の時代には「少子化」等は無縁の時代だったでしょうから、次の点が心理だったのです。

「子供や孫の世代が払い込む年金掛け金」は、「親の世代に払う年金額」よりも常に多い!

 

 この「花澤発言」に“ミイラ取りがミイラになった”かの如く、岩瀬氏は氏の著作『年金の悲劇』に次のように記述しています。

 

 文字通り、年金積立金はわれわれが払う年金掛け金から、給付すべき年金額を差し引いた「剰余金」を積み立てたものだ

 

 即ち、すっかり「花澤発言」の「賦課式」の虜になってしまっている岩瀬氏は勝手に(花澤氏の思惑通りに)、次の飛んでもない「年金黒字方程式」を打ち立ててしまったのです。

われわれが払う年金掛け金」マイナス「給付すべき年金額」=「年金積立金

 

 勿論、社会保険庁のホームページ(「平成14年度社会保険事業の概要」)には、「厚生年金保険の実質的な収支状況」と「国民年金保険の実質的な収支状況」の表が掲載されています。

「厚生年金」では次式となります。

「実質収入:290,755億円」-「実質支出:287,686億円」=「黒字額:3,089億円」

しかし、「国民年金」では、赤字です。

「実質収入:35,453億円」-「実質支出:35,834億円」=「赤字額:382億円」

 

 この「年金黒字方程式」を打ち立てた岩瀬氏が、515日の朝日ニュースター「パックインジャーナル」に出演すると、以前から“年金は黒字だ”とホラを吹く経済評論家の紺谷典子氏(拙文《インチキ評論家が年金は黒字と嘘を言う》を御参照下さい)は、早速、岩瀬氏に「年金は黒字」の御神託を頂き喜んでいました。

 

 そして、悲しいことに(岩瀬氏の年金問題を「週刊現代」が掲載していた為か)日刊ゲンダイの二木氏までが、522日の放送では、“年金は「賦課式」”と発言していました。

 

 更には、「道路公団問題」で活躍された猪瀬直樹氏までも、次のように発言されています。

(猪瀬氏のホームページより)

 

 積立金をグリーンピア(大規模年金保養基地)の建設に使い、自分たちの利権を守ろうとやっきになっている日本の官僚、積立金の無責任な株式運用による評価損は6兆円だぜ

 

 日本の年金の悲劇は、こんなちっぽけな(でも、全く許せない!)悲劇ではないのです。

岩瀬氏の指摘では、日本の年金の悲劇は、総額約9兆円です。

でも、これでは「年金は黒字」等という誤解が罷り通ってしまうのです。

 

 そもそも「年金の積立金」とは、その内の年金受給者達が積み立てた分から、彼等に、「年金」を支払う為のです。

ですから、今、なんかの事情で、国への年金収入がゼロになっても、現在の年金受給者は心配なく年金を受け取り続けられるのです。

(勿論、物価変動、賃金変動などは別として)

 

厚生労働省年金局のホームページ「公的年金各制度の現状 平成133月末現在」

http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/04/04_01_01_13

には、厚生年金適用者数:3,219万人、受給権者数:901万人、積立金(厚生年金基金が代行している部分の積立金(最低責任準備金)を含めた積立金):171.0兆円と記述されています。

 

 以下に、大雑把な計算を行います。

積立金171.0兆円は、適用者数と受給者数を合わせた人数:4,110万人の財産です。

これを一人当たりに計算しますと、416万円/1人 となります。

しかし、加入したばかりの人、(失礼ながら)もう寿命が尽きつつある方の積立金額(残額)は、ほぼゼロです。

しかし、これから年金を貰おうとされる人が一番多く積み立てて、積立金を全く使っていない人ですから、この人の積立金は、大雑把に平均の倍はありましょう。

となりますと、416万円の倍、836万円(約1000万円)となります。

 これを、平均余命の20年間にわたって均等に取り崩すと、50万円/年となります。

利息が付いて、6070万円/年と云ったところでしょうか?

 

 いくら、岩瀬氏が暴かれたように年金役人達に食い物にされ続けた「年金積立金」は、これくらいの力がある代物なのです。

 

 そして、この「積立金の運用」をしっかり行っていれば、「積立金」からだけでも、100万円以上/年を受け取れたのです。

 

(この「年金積立金の運用」を真面目に行ってきたのが「共済年金」なのではありませんか?)

 

 先の猪瀬氏のホームページにも、岩瀬氏は次のように発言されています。

 

……フランスへもなぜ取材に行ったかというと、いまフランス当局が積立金制度をつくっているところだったからです。フランスは、これまで集めたお金からその時点の年金受給者に年金として支給する完全賦課方式で、積立金がありませんでした。ところが、フランスでは少子高齢化で2040年ぐらいに給付総額のピークがきます。いまから貯金をつくって人口が山を越えるときに集中的に吐き出し、掛金を上げることを回避しようと1999年に新たに年金積立金制度を創設したその際、フランス政府は積立金が世界最大である日本の制度を研究した。それでがっかりした。日本は参考にならないと

……

 フランスでは積立金の運用機関「老齢年金積立基金」は、社会保障担当大臣、経済担当大臣、予算担当大臣の共同管理でチェックするのです。

 

……しかも実質的な運営にあたる基金の「監視会議」は年金加入者と受給者でつくられている。日本のように、御用学者の審議会が運用方針を密室で決めるようなことはありません。

 

 この様に、フランスの年金積立金に対して厳重なチェックが入ると云うことは、以下にこの運用を重視しているかを示している訳です。

 

 そして、このフランスの「積立金運用システム」は、日本の「共済年金」のそれと同種ではありませんか?!

岩瀬氏の著作『年金大崩壊』には、次のように書かれています。

 

 一般に年金の財源は、加入者が納めた掛け金とその掛け金の一部が蓄積された積立金の運用益収入、それに国庫負担金が加えられたものだ。これらの年金財源は、厚生年金、国民年金の場合、「年金特別会計」(厚生保険特別会計と国民年金特別会計)に繰り入れられ、厚生労働省で運営・管理される一方、共済年金のほうは、国の直接管理ではなく、加入者からなる共済組合で管理されている

 

 従って、日本の年金は、“国によって運営管理された(即ち、積立金の運用を等閑にされた)「厚生年金と国民年金」が赤字転落して、国ではなく組合が管理してきた「共済年金」が黒字である”と云う事実をはっきり認識し、赤字転落させた(花澤(岩瀬)方程式では、黒字であろうとも)責任をはっきりと追及すべきなのです。

 

 『それでも私は戦争に反対します(平凡社発行)』の中で、養老孟司氏は、

“責任者に対する必罰がない。私のような古い世代は、そこに重大な欠陥を感じます。それが戦前の陸軍の体質だったからです。……”

と書かれています。

 

 (なのに、イラクで人質になられた方々には「自己責任!」と咎めるのは、一体どうなっているのでしょうか?)

 

 確かに、現在の年金制度は欠陥だらけでしょう。

「共済年金」とて、いつまでも安泰と云うことはないかもしれません。

その為には、新たな年金制度を構築する必要はありましょう。

 

 しかし、その前に、今までの失敗をはっきり分析し、その責任を追及することが、不可欠なのです。

そして、

その出発点が「岩瀬氏スクープ」の「花澤発言」がらみの責任追及

となるのだと思います。

 

 民間企業に於いては、不良は(お客様には申し訳ないことですが)大事な教材です。

その大事な教材である不良の原因、責任を徹底的に追及せずには、根本対策は出来ず、次なる改善に結びつける事は不可能です。

そして、クレームだけを隠蔽していたら、何処かの企業のようになってしまいます。

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